東洋の政治思想の根本 [講孟余話]

講孟余話 第1巻 梁恵王 上 7章(1)

この章は孟子全体の中で最も長い章です。
そして、孟子が斉という大国の王に対して、
自らの政治の在り方、考え方を一気に伝えていく、
力感あふれる章です。

この章は3パートに分けて考えてみたいと思います。

まず、一番初めに考えたいのは、
この章において明らかになる、
「仁政の広め方」です。
この考え方にこそ、東洋の政治思想、というものが如実に表れており、
まさに、この先の世界経済を考えるにあたり、
大きなヒントではないか、と思っています。

孟子本文では、
斉の王が、祭りのために殺されようとしている牛を見て、
可哀そうだから、牛ではなく(当時としては生物的価値の低かった)羊にしなさい、
と憐れみをかけてことから始まります。
そして、牛のような獣にまで憐れみをかけるのに、
どうして人間、国民に憐れみをかけることをしないのか、
王に憐れみがないのではなく、
憐みの気持ちを表したり、伝えたりしていないのだ、と言っています。
そして、その憐みの気持ちを形にすることが、仁政である、としています。

その仁政の広め方の根本たる考え方として、
「自分の父母を尊敬するのと同じ心で他人の父母を尊敬し、
 自分の子弟をかわいがるのと同じ心で他人の子弟をかわいがる」
としています。
その引き合いとして、詩経の
「まず夫人を導き正しくし、ひいては兄弟を、さらには民草を、そして国家を安らかに」
という言葉を出しています。

つまり、国を治める根本は、
家族をいつくしむ心、
父母、祖父母を大事に思う、人間ならではの心、
自分の子供、孫を可愛く思う、人間が皆持っている心、
この心を、隣の家へ、
町中の家へ、郡中の家へ、そして国中の家へ広めていくことである、としています。

国の為政者が、家族をいたわるように、そのいたわりを押し広めていくこと、
これは、東洋ならではの政治思想ではないかと思います。

家族を大事に思う心、というのは、
人間であれば誰もが持っていることであり、(本来は)
その思いを政治の根本とする、
とても理にかなった根本思想ではないか、と思います。

現代の政治思想は、その根っこは個人の基本的人権の尊重、
国民一人ひとりの人権を尊重し、
生きたいように生きる権利を確保し、
そのための制度を整え、そのために生まれる齟齬を法律等で抑制し、
社会生活としての規範を示していく、というものであろうかと思います。
根本にあるのは、「自由」と言っていいかと思います。
人間本来が持っている、自由を尊重することが、
現代の基本的な考え方ではないでしょうか。

しかし、自由の確保に基づいた、
自由な経済活動、というのは、結果として、営利の追求を最優先する市場経済を形成し、
結果として、自由主義経済は今、大きな転換点を迎えていると思います。
昨年のダボス会議でも、各国の要人が、
今は世界経済のシステムの転換点である、
その経済システムの転換がなければ、
長期の経済安定にはつながらないのでは、と提言しております。

そのような時代であるからこそ、
次なる経済、グローバルの仕組みを考える際に、
東洋の「仁政」という思想は、再度クローズアップされてしかるべきではないか、と思います。
つまり、
「家族、家庭へのいつくしみやいたわり」
をベースに政治システム、経済システムを再検討する、ということです。

抽象的なところにまでしかまだ考えが及んでいず、
すっきりとしませんが、
少し例をあげるならば、
「自分の自由と利益を最優先とするのではなく」
「家族の構成員の幸せを大事にする」
ということでしょうか。
そして、家族が企業になり、公共団体になり、国になり、世界になる。
他人への思いやり、いたわり、を家族への思いをベースに広げていく、
そうすることで、個の利の追求、から、グループの理の追求、
そこにおいて、滅私、という思想が自然と出てくるのではないか、と思います。

個の利の最大化の追求、そのような経済システムはすでに破たんをしている、と思っています。
それに代わる、新しい思想が求められている時代において、
東洋の古代からの政治思想、というのは大いなるヒントがあると信じています。


そして、残念なことは、
今の日本において、このような家族間のいたわりやいつくしみ、
というものが薄らいできていることです。
教育、というテーマにおいて考えると、
この点は深い議論と素早い対応が必要ではないか、と思います。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

言葉の修め方恒産なくして恒心なし ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。